WILD THINGS
ARCHIVE DISCOVERY アーカイブから紐解く
ワイルドシングスのフィロソフィー

BAMBOO SHOOTS | DIRECTOR

甲斐 一彦

WILD THINGS
ARCHIVE DISCOVERY #2

ワイルドシングスが生み出した名品を巡る「アーカイブ ディスカバリー」。このジャーナルでは、長年にわたってワイルドシングスを見続けてきたバンブーシュートのディレクター・甲斐一彦氏が、数々の名品アーカイブを解説。往年の貴重なエピソードを交えつつ、ワイルドシングスのフィロソフィーを改めて深掘りしていく。
「もともとはマウンテンガイドに集まる
クライマーのために服を作っていた」
―― #2もまずは隠れた名品アウターから見ていってみましょう。
‘2000s
ビレイパーカ
甲斐 これはたしか、日本では本格的な展開はなかったと思います。’2000年代のビレイパーカですね。ロープクライミングでクライマーの安全確保をする、ビレイヤー向けに作られたアウターです。これも超撥水ナイロンのエピックを使っています。エピックは米軍にも採用され始めて、#1で見た’2000年代初頭のマウンテンパーカ以上に、信頼度が高まってきていました。ビレイヤーは冬の山中でじっと待機することもあり、タフなエピックの2枚地に、中綿に保温性に優れて水に強いプリマロフトを使用しています。ハーネスを腰に巻くため、Wジップであることも特徴ですね。このビレイパーカの裏地にもハーネスを巻いた跡があります。
――なるほど。これもまたリアリティあるクライミングアウターですね。

甲斐 そうですね。ただ汎用性が高いので、タウンユースにも使いやすかったと思います。いま改めて見ても、この雰囲気、かっこいいですね。



――では次はライトアウターを見てみましょう。
‘90s
ウィンドジャケット
甲斐 これは古いな。’90年代からあるウィンドジャケットですね。防風性が高くて丈夫なリップストップナイロンを使っていて、シンプルに見えて機能的なジャケットです。当時はフードなしのジャケット、ハーフジップもあった人気のウィンドブレーカーですね。

――こちらもまた、ブルーとパープルの中間のような、珍しい色をしていますよね。

甲斐 そうですね。#1でもありましたが、女性デザイナーのマリーらしい色使いだと思います。マリーはマウンテンガイドの娘として生まれ、そこに集まるクライマーに向けてウェアを作り始めたそうです。それが発展したのがワイルドシングス。女性的な感覚から生まれる色彩、シルエットのよさも、ワイルドシングスの特徴だと思います。
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‘2000s
クライマープリント
クライミングショーツ
甲斐 例えばこのクライミングショーツの柄は、パートナーのクライマー、ジョン・ポーチャードをイメージしたものといわれています。柄モノのクライミングショーツって珍しくて、僕もよく穿いてましたね。ロングパンツもありました。女性デザイナーらしさは作りのよさにもあって、例えばクライミングショーツの特徴的なディテール、180°開脚可能なガゼットクロッチがありますよね? ワイルドシングスのクライミングショーツは、しっかり立体的に180°開脚するんですよ。このパターンはすごいですね。当時から他のクライミングショーツとはひと味違う、いい作りだと感心していました。
――それは貴重なエピソードですね。

甲斐 生地もしっかり厚手で、肌触りのいいツイルを使ってるしね。シルエットも当時のいわゆる、大きめなアメリカンサイズと比べて綺麗です。あとはちゃんと、タフなデュラフレックスのバックルを使ってるしね。よく鞄などにも使われるバックルなんですけど、ここの裏を見ると年代もわかります。これは「00」とあるから2000年頃のものですね。というのもミルスペックと似ていて、修理、交換時に、何年代のものかわかるように記されているんです。モノ作りのクオリティからみても、信頼が置けるショーツだといえます。当時もよく売れていましたね。
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――こちらのTシャツの赤のグラフィックも、ワイルドシングスの象徴的なデザインだとか。
‘90s Tシャツ
甲斐 たしかクロウマークスと呼ばれていましたね。’60~’80年代頃のクライマーやアウトドアシーンって、ロープなしで手と足だけで登るフリーソロ・クライミングとか、ワイルドなことをしてる人たちが多くて、それがかっこいいというカルチャーがあったんです。マリーの周りにもそうした人たちが多く、彼らに向けたイクイップメントという意味合いで、ワイルドシングスという名前になったとも言われています。クロウマークスはワイルドな熊の爪痕をモチーフにしたもので、ワイルドシングスの象徴的なロゴデザインになっていました。

――Tシャツはもちろんですが、2000年代までアウターもアメリカ製であることが、改めて驚かされます。当時はどんどんアメリカ製のアウトドアギアがなくなっていく時代でした。

甲斐 そうそう。最後のアメリカ製アウトドアブランド、とも言われていて誇らしかったですね。ワイルドシングスは「LIGHT IS RIGHT」、軽いが真実と謳い、最先端の機能を積極的に取り入れていました。いわゆる現代のアウトドアシーンでいうUL(ウルトラライト)の走りだったと思いますよ。ワイルドシングスのアーカイブを見返して思ったんですけど、機能を追求しながら、まだまだアメリカ製のギアが残っていた。これって、すごくかっこいいことだなって思いますね。
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